企業の脱炭素、政府の推進、そして国際展開台湾のグリーンファイナンス“三本の矢”が発動

2025/06/06

インタビュー:環境部長・彭啓明氏が語る台湾の脱炭素政策の道筋

インタビュー:環境部長・彭啓明氏が語る台湾の脱炭素政策の道筋

2024年に総統に就任した賴清德氏は、新たに産業経験と学術的な専門知識を兼ね備えた新顔を内閣に迎え入れた。これにより、経済部から環境部に至るまで、ビジネス界出身者や学術的背景を持つ専門家が政府システムに参入した。このような人事配置は決して前例のないものではないが、政策決定により多様な市場の視点が直接注入され、産業実務と学術的知見の融合によって、台湾の公共ガバナンスに新たな道が開かれることとなった。



本誌は、環境部長の彭啓明氏に独占インタビューを行い、起業家から政治家へと転身した経緯を伺った。さらに、炭素税制度、グリーンファイナンス、国際協力といった政策の分析を深め、複雑な地政学的環境の中で台湾がいかにして自国の強みを最大限に生かし、ネットゼロへの転換を進めていくのかを探った。

起業家から政府官僚へ 低炭素転換を推進する鍵となる存在

彭啓明氏は政界入りする前、大気科学関連の事業で成功を収めた起業家だった。現在は環境政策の重責を担い、公共部門に市場の洞察力と実行効率をもたらしている。世界的な気候危機が一層深刻化する中、島嶼国家である台湾は、特殊な地政学的環境において、国際的な脱炭素の潮流に遅れることなく、競争力を維持していく必要がある。

起業家から環境部長に転身した彭啓明氏は、その職涯の転機を通じて、公私部門の本質的な違いについて深く理解するようになった。企業では「十案試水、二案成功(10の案を試して2案が成功すれば良し)」という考え方があり、試行錯誤を許容し、職員が失敗から学ぶことを奨励する余地がある。しかし、このアプローチは公的部門では通用しない。政策制定にはより全体的な視野が求められ、「政府機関はすべての人々の利益を考慮する必要があり、失敗は許されない」と述べている。


就任から1年も経たないうちに、彭啓明氏は企業での実務経験を生かし、エネルギー転換の重要局面において、比較的保守的な公共機関に市場メカニズムの考え方を導入し、台湾の産業発展の新たな基盤を築くために尽力してきた。

「カーボンプライシング」による環境政策改革

就任以来、彭啓明氏は「カーボンプライシング(炭素への価格付け)」を政策の中心に据え、台湾の環境政策を約10年ぶりの高水準にまで引き上げてきた。なかでも広く議論を呼び、大きな注目を集めた画期的な改革が「1トンあたり300台湾ドルの炭素税率」である。この税率は企業に対する一定のプレッシャーとなる一方、市場の低炭素化への意欲を刺激する効果も期待されている。

「気候変動対策の鍵はカーボンプライシングにある。つまり、炭素排出量を価格化し、炭素排出量自体にコストを課すことだ」と彭啓明氏は断言する。グローバルな経験から見ても、カーボンプライシングは各国が脱炭素政策を推進する上での主要なツールとなっている。


台湾の環境部は炭素税制度を主導しており、炭素税収入は気候変動関連分野にのみ使用されることを明確に規定している。これは一般的な税収とは異なり、収益が国家財政に流用されることがない。つまり、カーボンプライシングはあくまで行動変容を促すための政策的手段である。

制度整備と対象企業の概要

環境部は2024年に「炭素税徴収方法」と「自主削減計画管理方法」を公布し、同時に「炭素税徴収対象となる温室効果ガス削減の具体的目標」を公告することで、炭素税制度の三大規制基盤を固めた。これにより、規制対象企業は単なる形式的な対応にとどまらず、段階的な脱炭素戦略を策定するための十分な準備期間を確保できるよう、炭素税は2025年の実際の排出量に基づいて算定され、2026年から徴収されることになった。規制対象企業は前年度の排出量データと適用税率に基づいた料金を支払うこととなり、国民が一丸となって2030年の温室効果ガス削減目標の達成に向けて取り組む体制が整えられている。

最初の対象は年間炭素排出量が2万5000トンを超える企業で、合計で約500の工場と281の企業が規制の対象となる。対象企業の中には141社の上場企業が含まれており、これらは主に鉄鋼、セメント、化学材料製造といった高炭素排出産業に分類される。これらの産業は、国内における温室効果ガス総排出量の約54%を占めている。


彭啓明氏は「炭素税の核心は『脱炭素の手段』であって、『財政収入』ではない。炭素税の課税目的は、企業に炭素排出量の削減を促すことだ」と述べ、これが国庫の増税にも、環境部の私的資金にもならないことを強調した。

国際潮流への適応と独自制度の柔軟性

現在、世界70カ国以上が「カーボンプライシング・メカニズム」を導入しており、台湾もその国際潮流に歩調を合わせるかたちで、独自の炭素税制度を構築している。制度設計には柔軟な段階的税率が採用されており、基本税率は1トン当たり300台湾ドルとなっており、企業が業界の削減基準や技術ベンチマーク要件を満たす場合、50台湾ドルまたは100台湾ドルの優遇税率が適用される。


さらに、炭素漏出リスクの高い産業については、最低税率が1トンあたり10~20台湾ドルまで引き下げられる設計となっており、各産業にとって十分な調整余地が確保されている。


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