プロロジウム・楊CEOに聞く商業化戦略 EVから多様な用途へ、台日連携で次世代電池の事業展開を推進

2026/10/08

取材・文:Wendy Yen

プロロジウム、次世代電池の用途拡大へ 楊CEOに聞く商業化戦略

プロロジウム創業者兼最高経営責任者(CEO)のVincent Yang(楊思枏)氏


台湾の次世代電池メーカー、プロロジウム・テクノロジー(ProLogium Technology、輝能科技)が、電気自動車(EV)に加え、建設車両や無人システム、データセンターなどへの用途展開を進めている。軸となるのは、エネルギー密度や急速充電性能に、安全性と量産性を組み合わせる戦略だ。台湾を技術開発と製造検証の拠点とし、フランスで大規模生産、日本では九州電力との協業を通じた現地生産体制の構築を目指す。


創業者兼最高経営責任者(CEO)のVincent Yang(楊思枏)氏は、今年9月、日本で開催された「SMART ENERGY WEEK」の期間中、WindTAIWANとENERGY NIPPONの取材に応じた。次世代電池の普及には、性能を高めるだけでなく、安全性、製造コスト、利用時の経済性を同時に満たす必要があると説明した。


特殊用途で培った量産経験を大型電池へ

2006年設立のプロロジウムは、薄型や柔軟性、特殊な使用環境への対応が求められる電池から事業を始め、民生用電子機器や車載電子機器へと用途を広げてきた。楊氏によると、その安全性に欧州自動車メーカーが関心を示したことが、大容量の駆動用電池開発を進める契機となった。


楊氏が重視するのは、安全性の確保を軸に、材料開発から製造・販売までを一体で考えることだ。製品の販売で事業を維持する必要があるため、材料やセル構造を開発する段階から、設備、工程、量産方法も検討してきたという。


同社によると、2013年の商業生産開始以降、リチウムセラミック電池の累計出荷は240万セルを超えた。車載オーディオシステムなどへの供給に加え、自動車用途の電池サンプルも約1万セル提供している。


こうした実績は製造と顧客対応の経験を示す一方、乗用車の駆動用電池としての大量採用とは段階が異なる。駆動用電池は容量や使用条件、検証要件が異なり、量産車への搭載には自動車メーカーによる評価と、安定供給やコスト競争力の確保が必要になる。


高エネルギー密度と急速充電、システム全体で価値を測る

同社は2026年9月、台湾のGWh級工場で「Gen 3.5」全固体リチウムセラミック電池の量産を開始したと発表した。同社が公表した第三者機関TÜVの試験結果では、容量185.4Ahの大型セルが重量当たり381Wh/kg、体積当たり903Wh/Lのエネルギー密度を達成した。


エネルギー密度が高まれば、同じ電力量を確保しながら電池を軽く、小さくできる可能性がある。車両やロボット、航空機では、搭載スペースや積載量、航続距離の設計に余地が生まれる。


急速充電と低温性能については、同社が6月に発表したOPmobilityとの協業資料で、超流動化した全無機電解質系を用いる電池について、充電率5%から80%まで約6.4分、サイクル寿命1200回超、氷点下20度でも95%超の放電性能を維持するとの数値を示している。


これらはGen 3.5の試験結果とは技術や評価の背景が異なる。車両に搭載した際の充電時間や航続性能は、電池パックの設計、充電設備、使用環境によっても変わる。


楊氏は、急速充電、低温性能、エネルギー効率を同時に改善できれば、EVの電池容量をひたすら増やすのではなく、より小さな電池パックで利便性を確保し、車重や総コストを抑える選択肢が生まれるとみる。


ただし、セル単体の性能がそのまま製品の競争力になるわけではない。パック化の際に加圧・固定などの補助構造が増えれば、重量、体積、コストの優位性が小さくなる。評価の対象は、あくまでシステム全体の性能だという。


プロロジウムの超流動化電池セル(Superfluidized  Cell)(写真提供:プロロジウム)


第4世代は異常時の反応抑制を重視

安全性について楊氏は、電解質の燃えにくさだけでなく、異常時の正極・負極材料の反応や可燃性ガスの発生、隣接セルへの影響まで考える必要があると指摘する。


開発を進める第4世代技術の英語名称は「Gen 4 All Inorganic Superfluidized Solid State Lithium Ceramic Battery」。全無機の超流動化電解質系と、主動的安全機構「ASM(Active Safety Mechanism)」を採用する。


同社の説明では、ASMは異常な高温下で電極材料を安定化させ、熱暴走を防ぐことを狙った仕組みだ。楊氏は取材で、異常な高温や高電圧の条件下で材料を不活性化し、電池を恒久的に停止させる設計だと説明した。


一方で、すべての用途に同じ電池が適するとは限らない。高温への耐性が必要な機器と、低温性能や急速充電を重視する機器では、求められる設計が異なる。用途に合わせた技術の選択が重要になる。


量産面では、Gen 3.5とGen 4が共通の「Logithium」セル構造と主要製造工程を用いる点を強調する。また、Gen 3.5は複合固体電解質系を採用し、Gen 4は基本構造を維持しながら全無機電解質系へ移行する。低温性能の改善と材料・製造コストの低減も見込む。


同社は、既存のGWh級生産ラインと関連設備の約10%を改修することでGen 4に対応できると予想している。既存設備を活用して世代交代の負担を抑える構想だが、Gen 4は産業化に向けた段階にあり、商業量産の開始は発表していない。


当面は無人システムと建設車両に注力

市場開拓では、顧客がどの性能に価値を認めるかが判断軸になる。楊氏は、電池価格に敏感な乗用車市場に対し、一部の産業機器や高付加価値施設では、安全性、稼働継続、作業効率が採用判断で大きな比重を占めるとみる。


また、台湾・桃園の桃科工場について、2026~2027年は無人システムと建設車両を生産上の優先分野とする方針を示した。並行して、EV、船舶、航空宇宙向けにA・Bサンプルの製造と検証を支援する。これらの大型用途が本格的な商業生産へ移行した際には、フランス工場で将来の数量需要に対応する計画だ。


AIデータセンター向けバッテリーバックアップユニット(BBU)やロボットについては、2028年以降、桃科工場の生産対象を広げる方針を示した。長期的には、同工場をこれらの用途におけるアジア太平洋地域の生産・供給拠点と位置付ける。


楊氏はデータセンターについて、限られた空間に必要なバックアップ電力を確保するには、出力、体積、安全性、発熱を併せて評価する必要があると説明する。電池による熱負荷や事故リスクの低減に価値があれば、電力量当たりの購入価格だけでは経済性を測れないという。


航空分野では、6月にオランダの電動航空機開発企業Elysian Aircraftと覚書を締結した。既存の電池技術と航空機用システムの適合性を確認する評価と、航空用途の要求に合わせた専用設計の検証を進める。また、パックレベルで約320~420Wh/kgのエネルギー密度と、約750~1000kmの航続距離を目指している。これらはいずれも開発目標であり、商用機で実証された性能ではない。


九州電力と段階的に日本の製造基盤を構築

日本では、九州電力との関係を技術・案件単位の協業から資本を含む戦略的提携へ広げる。具体的には、九州電力を戦略的な出資パートナーとして迎え、協力関係を深めている。


協業は段階的に進める。第1段階では、日本市場で同社の電池モジュールを展開するとともに、日本でのモジュール生産体制の整備を計画する。九州電力、中山鉄工所との建設機械分野の協業や、24Vリチウムセラミック電池モジュールの開発を土台とする。


次の段階では、日本にセルの後工程の生産機能を設け、現地のモジュール生産につなげる構想だ。セルの後工程からモジュール製造まで、一体的な供給体制の構築を目指す。生産規模、出資の詳細、実施時期は今後明らかにするとしている。


楊氏は、日本が蓄積してきた材料や精密製造の技術を重視する。協力対象を設備、工程、研究開発へと広げ、技術と実際の用途開発を結び付けたい考えだ。


フランスは2029年の商業出荷を計画

フランス北部ダンケルクの工場は、2026年2月に着工した。楊氏は、欧州顧客への近さに加え、電力供給、生産時の炭素排出、政府支援などが立地選定の要因になったと説明する。


同社の計画では、2028年第4四半期から2029年第1四半期にかけて生産の立ち上げを進め、2029年第2四半期に本格量産と商業出荷を始める。第1期の年産能力は2030年までに段階的に4GWhへ引き上げる見通しだ。


資金調達では、Translational Development Acquisition Corp.との企業結合に関する最終契約を締結し、米証券取引委員会(SEC)にForm F-4登録届出書を提出したという。株主承認などの条件を満たした場合、2026年第4四半期の取引完了と、ティッカーシンボル「PRLG」による米ナスダック上場を見込む。


同社は調達資金をダンケルク工場の建設、Gen 4の事業拡大、データセンターやヒューマノイドロボットなどの用途開拓に充てる方針だ。台湾での技術開発・製造検証を維持し、日本での協業や用途開発も進める。


中間製品の供給と製造ライセンスを組み合わせる

海外展開では、自社工場だけに依存しない生産モデルも構想する。プロロジウムが前工程を担い、電解質、セラミックセパレーター、セル構造、安全技術を組み込んだ中間製品「Inlay」を供給する。提携先はこれを使い、ライセンスを受けた後工程で用途別のセルを現地生産し、モジュールやパックへ組み込む仕組みだ。


中核技術を自社に残しつつ、最終市場に近い場所で生産能力を広げる狙いがある。具体的なInlay供給契約や後工程のライセンス提携は、進展に応じて公表するとしている。



高性能なセルを、安定して供給できる製品へどうつなげるか。プロロジウムの次の課題は、用途ごとの検証と量産の積み上げにある。台湾の技術開発、フランスの大規模生産、日本の産業連携を組み合わせる戦略は、その実行力が問われる段階に入る。



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