台湾・森崴能源、700MW洋上風力「又徳」を契約解除へ 銀行債務4.7億台湾ドル、再建の行方不透明
2026/8/27
台湾経済部能源署は、台湾西部沖で計画されている出力700メガワット(MW)の洋上風力発電所「又徳(Youde)」について、開発事業者との行政契約を解除する手続きを進めている。開発を担う森崴能源(Shinfox Energy)グループが、期限までに履約保証金の残額を納付できなかったためだ。
森崴能源は大型洋上風力工事の損失で財務が悪化し、2026年6月に上場廃止となった。その後も銀行から計約4億7000万台湾ドル(約23億円)の返済を求められている。一方、創業家関係者による公開買付けも始まっており、又徳風力発電所の契約解除手続きと並行して、同社の経営再建の行方に関心が集まっている。
履約保証金の残額を納められず
又徳風力発電所は、台湾政府が2024年に実施した洋上風力発電の区画開発第3期第2段階(ラウンド3-2)の事業者選定で、森崴能源傘下の富崴能源(Foxwell Energy)が700MWの開発容量を獲得した案件だ。同ラウンドでは評価順位が首位だった。
事業者は行政契約の締結時に履約保証金の50%を納付し、締結から1年後に残る50%を納めることが求められていた。台湾メディアによると、保証金の総額は約14億台湾ドルで、事業者側は約7億台湾ドルを納付したものの、残額を期限までに納められなかった。
経済部は5月18日と6月12日の2回にわたり、残る保証金の納付を要求した。事業者が提出した資料は公告で定めた保証金の要件を満たさず、8月に最終的な改善期限を設けた後も納付が完了しなかった。
能源署は8月24日、契約解除に向けた内部手続きを進めていると説明した。現時点では解約手続きの途中であり、行政契約の解除が正式に完了した段階ではない。
森崴能源側は契約解除に関する通知を受け、すでに意見書を提出したとしている。今後は経済部による審査と最終判断が焦点となる。
台電案件の損失で純資産がマイナスに
森崴能源(Shinfox Energy)の経営悪化を招いた主因は、子会社の富崴能源(Foxwell Energy)が請け負った台湾電力(台電, Taipower)の「離岸風力発電第2期計画」とされる。
新型コロナウイルス禍による工期の遅れに加え、ロシアによるウクライナ侵攻後の資材価格高騰、金利上昇、船舶や人員の調達費増加などが重なり、多額の工事損失が発生した。固定価格で受注した大型工事で、想定を上回るコストを十分に転嫁できなかったことも財務を圧迫した。
森崴能源は2026年1~3月期に純資産がマイナスとなった。台湾証券取引所は上場基準を満たさなくなったとして、同社株式を6月23日付で上場廃止とした。既存工事で発生した損失が資金調達力を低下させ、新たな洋上風力発電所の開発にも波及した格好だ。
同社が整備してきた洋上風力向け船隊でも問題が表面化した。シンガポール子会社が保有する大型重量物運搬・起重船「SFE Hercules(巨人号)」は、約54万7000ドルの債権請求を巡りシンガポールで差し押さえられた。同船は台電の洋上風力第2期計画で、風車の基礎構造物や大型部材の据え付けなどに投入されていた。
銀行2行が計4.7億台湾ドルを請求
上場廃止後は銀行債務を巡る問題も相次いでいる。
森崴能源は7月28日、永豊銀行からの短期借入金について、資金繰り上の事情から期日までに返済できなかったと発表した。未返済の元本は約1億2000万台湾ドルで、これに利息や違約金が加わる。
さらに8月24日には、中国輸出入銀行との海外投資融資契約を巡り、新北地方裁判所から支払い命令を受けたと公表した。同行は、森崴能源が海外投資先の株式を処分した後、契約に基づく融資返済を行わなかったと主張。元本3億5190万台湾ドルに加え、2026年7月1日から完済日まで年率2.1361%で計算した利息、遅延損害金などの支払いを求めている。
永豊銀行と中国輸出入銀行が請求する元本を合計すると、約4億7000万台湾ドルに達する。森崴能源は債権銀行との協議を進め、債務返済期限の延長や返済計画を策定する方針を示している。早期に合意し、関連する執行手続きの撤回を目指すとしている。
創業家関係者が公開買付け
債務問題が続く一方、森崴能源では経営権の取得を視野に入れた公開買付けが進められている。
台湾の公開情報観測所によると、胡正杰氏は8月18日から森崴能源株を1株当たり0.05台湾ドルで買い付ける。取得予定株式は発行済み株式総数の50.98~72.82%で、過半数の取得を最低条件としている。
台湾メディアは、胡正杰氏が森崴能源の元総経理、胡惠森氏の息子だと報じている。公開買付けが成立すれば創業家関係者が経営権を握る可能性があるが、買付価格は極めて低く、株式取得に必要な資金と会社再建に必要な資金には大きな開きがある。
銀行債務への対応に加え、工事損失や事業継続に必要な運転資金をどのように確保するかが課題となる。公開買付けの成立だけで財務問題が解消するわけではなく、新たな資金支援者の有無や債権銀行との交渉が再建を左右する。
国産化政策、事業遂行能力の検証が課題に
台湾政府は洋上風力発電の導入拡大にあたり、風車部品の製造から海上施工、専用船舶、運転・保守まで、国内サプライチェーンの形成を進めてきた。森崴能源は発電事業の開発と海上工事の双方を手掛ける地場企業として、国産化政策を担う有力企業の一つと位置付けられていた。
ただ、洋上風力発電には巨額の先行投資が必要となる。資材価格、金利、為替、船舶調達、海象条件、工期の遅れなど、複数のリスクを長期間にわたって管理しなければならない。
森崴能源の経営危機は、国内企業への発注拡大だけでは、国際的なコスト上昇に耐えられる財務基盤や工程管理能力を必ずしも確保できないことを浮き彫りにした。大型工事、専用船への投資、新規風力発電所の開発を同時に進めたことで、財務負担が短期間に集中した可能性もある。
又徳風力発電所が正式に契約解除となれば、台湾政府は失われる700MWの開発容量をどのように扱うか判断を迫られる。今後の事業者選定では、価格や国産化への貢献だけでなく、資金調達力、工事遂行能力、リスク管理体制をより厳格に検証する必要性が高まりそうだ。
台湾の洋上風力政策は、国内サプライチェーンの育成を優先する段階から、国産化と事業の実現可能性を両立させる制度設計への転換点を迎えている。
資料参考: 自由財經・銀行債務と公開買付け、自由財經・又徳風力発電所の解約手続き、Recharge、台湾証券取引所





