台湾、浮体式洋上風力の実証へ 商用化の鍵は港湾・産業集積・系統の一体整備
2026/9/16
画像出典:台湾経済部オンラインライブ配信
台湾の経済部能源署は9月8日、浮体式洋上風力の実証事業に関する制度案を公表した。原則2案件を選定し、状況に応じて1案件を追加する方針で、1案件当たりの設備容量は100~200MWを想定する。2032年末までの完成・系統連系を基本目標に、深い海域での開発に向けた技術や事業性を検証する。ただ、実証を将来の大規模な商用開発につなげるには、風車の設置と並行して、港湾、サプライチェーン、電力系統の整備を進める必要がある。
原則2案件を選定、技術力と財務力を重視
制度案では、2026年第4四半期に公募ルールを公告し、2027年第1四半期から申請を受け付ける予定だ。受付期間は6カ月間とし、各案件に6~12基の浮体を設置する。
完成・系統連系の期限は原則として2032年末とする。ただし、制度案では、2032年末までに全ての浮体の設置、または半数の系統連系を完了した場合、翌2033年の完成・系統連系を認めるとしている。
審査は100点満点で、技術能力45点、財務能力40点、持続可能性・地域連携15点とし、70点を合格基準とする。技術面では、開発チームの遂行能力に加え、浮体や風車、係留システム、海底ケーブルの設計、港湾施設や海洋工事船の利用計画、工程の妥当性などを評価する。
財務面では出資者の資金力や資金調達計画、財務構成、リスク管理を確認する。持続可能性・地域連携では、環境との共生や地元の産学連携、人材育成などを審査する。
事業支援には固定価格買取制度を活用する方針だ。能源署は初期投資額、発電量、運転・保守費用などの情報を収集し、買取価格の検討に生かす。実証を通じて技術や制度上の課題を把握し、将来の商用開発に必要な手順を整える狙いがある。

浮体式の事業化を左右する港湾機能
実証事業を進める上で、大きな課題となるのが港湾だ。
着床式洋上風力でも港湾は重要な役割を担うが、浮体式では、採用する浮体形式や施工方法によって、港内で浮体と風車を一体化し、完成した設備を沖合へ曳航する方式が用いられる。この場合、港湾には資機材の搬出入だけでなく、組み立てや一時保管、海上への送り出しを支える機能が求められる。
必要となるのは、岸壁の耐荷重や背後用地にとどまらない。港内と航路の水深、風車を搭載した浮体の移動・旋回空間、複数の浮体を保管する水域なども、事業の実行可能性を左右する。要件は浮体形式によって異なるため、開発計画と港湾条件の適合性を早期に見極める必要がある。
説明会では、曳航船の能力不足も指摘された。産業界からは、14MW級風車を前提とした場合、250トン以上の曳航力が必要になる一方、台湾の既存船舶は最大でも約150トンにとどまるとの意見が出た。必要な曳航力は浮体の形状や海象条件、船舶の組み合わせによって変わるものの、海洋工事の体制整備が課題であることを示している。
台湾能源署の陳崇憲副署長は、実証の目的の一つが、浮体式に対応するインフラや海洋工事能力の検証にあると説明した。浮体の事前組み立てに必要な港湾空間についても、台湾港務と協議を進めているという。
港湾投資と案件開発の時間軸を合わせる
制度案は、港湾や船舶の利用計画を開発事業者の技術評価に組み込んでいる。個別案件の実現性を確認する上では重要だが、共通インフラの不足を各社の対応だけで補う場合、費用が膨らむ可能性がある。
複数の港に工程を分散させれば、追加輸送や積み替えが必要になる。遠方の港湾を使えば曳航距離が延び、海外の特殊船舶に依存すれば、調達費用や配船時期の不確実性も増す。実証案件として成立しても、その方式を大規模開発で繰り返せるとは限らない。
一方、100~200MW規模の単独案件だけで、大規模な港湾整備への長期投資を支えることにも限界がある。政府や港湾運営主体による共通インフラの計画と、事業者による設備・施工計画を整合させ、投資と利用の見通しを共有することが重要になる。
港湾整備には用地確保、岸壁改修、浚渫、航路調整などが伴い、長い準備期間を要する。2032年末の系統連系を目指すなら、事業者選定と並行して、利用港湾と必要な整備内容を具体化することが求められる。
既存の産業集積を量産につなげる
台湾が着床式洋上風力で築いてきた産業基盤を、浮体式にどう活用するかも焦点となる。
台中港周辺などには、風車関連設備、鋼構造物、重量物輸送、海洋工事などの企業が集積している。浮体式では新たな技術や設備が必要になる一方、既存の製造・物流機能や人材を活用できる余地もある。
案件ごとに港湾、輸送経路、組み立て工程を一から構築する場合、経験の蓄積や設備の共用が進みにくい。複数案件で共通の拠点や工程を利用できれば、設備稼働率の向上や施工の習熟を通じたコスト低減が期待できる。
そのため、実証段階では個々の浮体の性能に加え、量産への移行可能性を評価する視点が欠かせない。設計や部材をどこまで共通化できるか、港湾での組み立て能力をどの程度拡張できるか、係留や曳航の手順を後続案件に引き継げるかが、商用化を見据えた論点となる。
海域ごとの水深や海底条件に応じた設計は必要だが、共通化できる部分を増やすことは、製造、認証、調達、施工の効率化につながる。実証の評価にも、こうした再現性と拡張性を反映することが望まれる。
系統連系も将来の開発規模から逆算
港湾と並び、早期の検討が必要なのが電力系統への接続だ。
制度案では、申請者に台湾電力の系統連系審査に関する意見の取得を求めている。ただ、将来の商用開発を見据える場合、個別の実証案件が接続できるかという確認だけでは十分とはいえない。
開発が有望な海域と、送電ケーブルの陸揚げ地点、接続先の変電所、陸上系統の増強計画をどう結び付けるかが重要になる。案件ごとに独立したルートや設備を整備すれば、投資の重複や陸上での調整負担が生じる可能性がある。
複数案件による送電経路や設備の共用には、費用負担、運用責任、開発時期の調整といった課題がある。それでも、将来の開発量を想定して早い段階から検討することは、電力システム全体の費用を抑える上で意味を持つ。
場址の評価にも、風況や水深だけでなく、組み立て港からの距離、既存の産業集積、陸揚げ地点、系統の受け入れ余力を含める必要がある。風況が優れていても、輸送や系統増強に大きな費用がかかれば、総合的な競争力は低下するためだ。
実証後を見据えた開発の見通しが必要
今回の制度案は、台湾が浮体式洋上風力の事業化に向けて踏み出す重要な一歩となる。今後の焦点は、実証で得た経験を後続案件に引き継げる仕組みを構築できるかにある。
その土台となるのが、港湾、風場、電力系統を一体で捉えた開発計画だ。主要な組み立て拠点、用地・水域の確保、岸壁や航路の条件、船舶能力、段階的な投資計画を示すことで、企業も設備や人材への投資を判断しやすくなる。
あわせて、実証後の商用開発について、時期や規模の見通しを示すことが重要だ。後続需要が不透明なままでは、港湾運営者や製造業、海洋工事会社が専用設備への投資に踏み切ることは難しい。
実証事業の成果を測る際には、発電性能や稼働率に加え、整備した港湾が次の案件にも使えるか、施工手順を再利用できるか、供給網が継続的に受注できるかという視点も必要になる。
台湾の浮体式洋上風力が持続的な産業へと育つかどうかは、最初の風車を設置するまでの取り組みと、その先の開発を支える基盤整備を、どこまで同時に進められるかにかかっている。
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