カナダ、7兆円規模のクリーン電力投資 水力・風力を拡大、北米最大級
2026/8/20
カナダのマーク・カーニー首相、北米史上最大規模のクリーンエネルギー投資を推進。画像出典:Mark Carney LinkedIn
カナダ政府は、東部ラブラドール地方を中心に水力発電や陸上風力、送電網を大規模に増強する。事業規模は約700億カナダドル(約7兆円)に上り、政府は「北米史上最大のクリーンエネルギー投資」と位置付ける。電力需要の増加に対応するとともに、重要鉱物などエネルギー多消費型産業への電力供給を強化する。再生可能エネルギーと送電インフラへの一体投資を通じ、カナダのエネルギー安全保障と産業競争力を高める狙いだ。
カナダのマーク・カーニー(Mark Carney)首相は8月17日、ケベック州(Québec)、ニューファンドランド・ラブラドール州(Newfoundland and Labrador)、電力会社のハイドロ・ケベック(Hydro-Québec)とニューファンドランド・ラブラドール・ハイドロ(Newfoundland and Labrador Hydro)の首脳らと共同で、一連のクリーン電力開発計画を発表した。
計画の柱となるのが、ラブラドール地方にある既存のチャーチルフォールズ(Churchill Falls)水力発電所の増強と、新たなガルアイランド(Gull Island)水力発電所の開発だ。これに送電網の整備や陸上風力発電を組み合わせ、カナダ東部の電力供給能力を大幅に引き上げる。
カナダ政府によると、一連の建設事業の総額は約700億カナダドルに達する。連邦政府は最大100億カナダドルの金融支援・投資を実施し、長年構想されてきたガルアイランド(Gull Island)計画については資金調達を保証する。
チャーチルフォールズを大幅増強
チャーチルフォールズ(Churchill Falls)発電所では、既存の11基の水力タービンを順次改修する。設備更新によって1,275メガワット(MW)の能力増強を図るほか、発電所そのものの拡張で最大2,500MWを追加する計画だ。
さらにチャーチル川(Churchill River)では、新たに出力2,700MWのガルアイランド(Gull Island)水力発電所を建設する。2036~37年の運転開始を見込み、年間発電量は約12テラワット時(TWh)を想定する。大西洋岸やカナダ中部への安定した電力供給に加え、変動の大きい風力など再生可能エネルギーの導入拡大を支える調整力としての役割も期待される。
発電設備の増強に合わせ、チャーチル川(Churchill River)周辺からケベック州(Québec)境まで660キロメートルを超える送電線などを整備する。チャーチルフォールズ(Churchill Falls)からラブラドールシティー(Labrador City)に向けて新たな735キロボルト(kV)の送電線も建設し、住宅需要だけでなく鉱山開発などの産業需要にも対応する。
陸上風力2GWも開発へ
水力だけでなく風力発電も拡大する。ニューファンドランド・ラブラドール・ハイドロ(Newfoundland and Labrador Hydro)は、ラブラドール(Labrador)地方で計2,000MWの陸上風力発電を開発する構想を進める。具体的な建設地点などは今後検討する。
カーニー首相は、一連の計画によって生み出されるクリーン電力の規模について、トロント、モントリオール、バンクーバーの3都市にある全住宅の照明、暖房、冷房をまかなえる規模になるとの見方を示した。
関連事業全体では約2万3,000人の雇用創出が見込まれ、2040年代初頭までにカナダの国内総生産(GDP)を約310億カナダドル押し上げる効果が期待されている。
重要鉱物開発と電力インフラを一体化
今回の投資は単なる再生可能エネルギー開発にとどまらない。カナダ政府は「ラブラドール・トラフ・クリーン電力・重要鉱物・インフラ回廊(Labrador Trough Clean Power, Critical Minerals and Infrastructure Corridor)」を連邦政府のMajor Projects Office(MPO)による審査対象に指定した。
ラブラドール・トラフはラブラドール地方からケベック州にまたがる全長約1,100キロメートルの鉱業地帯で、高純度鉄鉱石などの重要な供給拠点となっている。鉄鉱石は低炭素鉄鋼のサプライチェーンでも重要性が高まっており、カナダ政府は安価で安定したクリーン電力を確保することで、鉱山開発や資源加工への投資を呼び込みたい考えだ。
送電容量はすでに一部地域で上限に達している。このため発電所だけでなく、鉱山と電力網を結ぶ送電設備や輸送インフラも同時に整備する。政府は別途約2,000万カナダドルを投じ、鉱山開発に必要な港湾、鉄道、送電設備などの事業化調査を支援する。
2050年の電力網倍増へ布石
カナダでは現在、発電電力量の約8割を水力、原子力、風力、太陽光などの非排出電源が占める。とりわけ豊富な水力資源は同国の競争力の一つで、電化やデータセンター、資源開発などに伴う電力需要の拡大を背景に、発電・送電能力のさらなる増強が課題となっている。
カナダ政府は2050年までに国内電力網の容量を倍増させる目標を掲げる。今回のラブラドール地方での大型投資は、今後策定する「国家電力戦略(National Electricity Strategy)」の中核案件の一つになる見通しだ。
一方、大規模水力発電や長距離送電線は建設期間が長く、ガルアイランドの運転開始も2030年代後半を予定する。総額700億カナダドル規模の投資を計画通り実行できるかに加え、環境審査や先住民との協議、州政府間の長期的な協力体制も事業実現の鍵を握る。
カーニー政権は、クリーン電力を脱炭素政策だけでなく、エネルギー安全保障や重要鉱物、製造業の競争力を支える産業インフラとして位置付け始めている。水力を基盤に風力と広域送電網を組み合わせる今回の計画は、北米の電力市場におけるカナダの存在感をさらに高める可能性がある。
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